建築家堀部安嗣と考える

これからの断熱材の考え方

『コンフォルト』No.183 2022 February 掲載

いまやデザインや構法と等しく、住宅設計の要となる断熱性。
ドイツ発の木繊維断熱材「シュタイコ」を輸入するイケダコーポレーションの副社長・加藤俊和が、
建築家の堀部安嗣さんにこれからの住宅と断熱の関係性について話を聞いた。

「シュタイコ」はヨーロッパ有数の木質系断熱材メーカーであるドイツのSTEICO社で製造。原料はトウヒをはじめとする針葉樹の端材。製造工程も環境への配慮が行き届き、梱包材に至るまで再生利用可能な素材でつくられている。3種類の形状があり、組み合わせや工法により内断熱・外断熱さまざまなアレンジが可能だ。

いまや夏の断熱も重視すべき時代

「断熱材は、冬の寒さ対策を主眼としてスウェーデンやドイツなど北方から発達したものです」と加藤。日本はそれに倣うように断熱対策に取り組んできたが、問題となるのは激しさを増す夏の蒸し暑さ。ヨーロッパも近年、未曾有の暑さに見舞われている。「そのために重要なのが断熱材の比熱容量、つまり蓄熱性です。日本では断熱性能を熱伝導率の低さで評価してきましたが、それだけでは夏の暑さはしのげません」。

 堀部さんも蓄熱の意義に同意する。

「人体のセンサーは複雑で、暑さ・寒さを感じる指標となるのは室温ではなく、壁からの放射熱。それに影響を及ぼすのが蓄熱です。躯体の表面温度が安定すると体がラクになる、と身をもって体感しました」

 ただし断熱性と蓄熱性は別もの。「一般的に断熱性が高い素材は包装の緩衝材やグラスウールなど空気を含む軽いもの、蓄熱性が高い素材は土壁やレンガのように重いもの。対極ですよね」と、堀部さん。

「それを両立させたのが木材を原料にした断熱材『シュタイコ』なんです」と加藤が強調する。「住む人の健康とエコロジーを兼ね備えた住宅はどのように実現できるのか、海外に学びながら漆喰や塗料を輸入してきましたが、断熱材でも日本にあったいいものを探し、巡り合ったのがこれでした」。

シュタイコは比熱容量が高く、透湿性を兼ね備えているという、高温多湿な日本の夏にふさわしい特徴をもつ。「内装も外装も調湿性のある材料にして、余分な湿気を外に出そうという考え方です。我々は既成概念を持っていなかったので、素直に受け入れることができました」。

 堀部さんは、自然素材についてはどのように考えるのだろうか。

「じつは僕には自然素材信奉はないんです。樹脂系の建材も使うし、グラスウールも使います。要は組み合わせ方、バランスです。ですが、いろいろな素材を使い続けてきて、やっぱり木へ行き着くというのはあります。このようなマルチファンクションな素材は、現代の技術をもってしてもつくり出すのは難しいのではないでしょうか」。続けて、「断熱材にも木を使えるのなら、構造・仕上げ・ディテールなど家の隅々まで木を用いたソリッドな木造住宅がつくれることになりますね。それがもたらす遮音効果にも興味があります計測値とは別の次元で、感覚的な静けさが得られるといい」。

断熱は身体と心を開く技術

「断熱・気密・蓄熱というとアレルギーを持っている人がまだいます」という加藤に対し、堀部さんは「陽だまり、風通しなどというと聞こえがいいですけれど」と同意する。「機械空調を否定せず、過剰に依存せず、良質な技術は積極的に取り入れたいと思っています。高性能のエアコン1台程度で家全体を快適な状態に保つのが理想ですね」。

堀部さんは、重要なのは数値ではなく、五感に働きかける、トータルな快適さだという。

「寒いと身体が縮こまり猫背になりがちですが、暖かいと背筋が伸びてアクティブになります。また、家の至るところが使えるようになる。広い家でも断熱性能が悪ければ、冬なら暖房が及ばない場所には居られないし、夏なら暑い2階には行きたくないですよね。温熱環境の技術は、身体と心を豊かに開放してくれます。これは住まい手の方々も実感してくださっています」。

 加藤は頷いてアピールした。
「日本の住宅建築をいいものにしていこうとなさっている堀部さんに共感しています。ぜひ、シュタイコを使ってみてください」。

木繊維断熱材
シュタイコ

「シュタイコ」は蓄熱性の高さを兼ね備え、熱容量を高めることで屋根・外壁からの熱の侵入を減少させる。

図1は、夏季の外部と内部の温度変化を示したもの。シュタイコは、日中の高温が外壁を通じて侵入するスピードを最高12時間遅らせることができる。熱は高温部から低温部に移動するため、建物内に蓄熱した熱エネルギーは、日の陰りとともに温度の下がった屋根・外壁方向に移動する。

図1 夏季の外部と内部の温度変化

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表1は、断熱材の比較。熱伝導率とは、物質内の熱の伝わりやすさを示す値。数値が低いほど断熱性が高い。比熱容量とは、物体の温度を1K上昇させるために必要な熱量。数値が大きいほど、断熱材が熱を溜め込むことができ、断熱効果が高い。イケダコーポレーションは日本への導入にあたり、実大実験棟を建て1年にわたり実証実験を実施。急速に注目を集めている。

表1 断熱材の比較
(出典:シュタイコ社調べ)

堀部安嗣 Yasushi Horibe

堀部安嗣建築設計事務所 https://horibe-aa.jp/
1967年神奈川県横浜市生まれ。1991−1994年益子アトリエにて益子義弘に師事。2002年第18回吉岡賞を「牛久のギャラリー」で受賞、2016年日本建築学会賞(作品)を「竹林寺納骨堂」で受賞。2007年−京都造形芸術大学大学院教授。 近著 住まいの基本を考える(2019 新潮社)
*これは、建築とインテリアの専門誌『コンフォルト』2022年2月号(発行・建築資料研究社)に掲載されたタイアップ記事(取材・文 植林麻衣、撮影 淺川 敏)を再構成したものです。

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サンプル 太郎
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