Interview #04 │ 自然のもたらす流れの建築

「自然から得られる光や熱を有効に利用し、そこに人間の感覚や行動が伴って快適性を得る」という考え方のもと、空気の循環や日射取得などを生かす設計や素材を用いた建築を手がける佐藤欣裕さん。スイス・オーストリアのサステナブル建築に精通しているだけでなく、日本の伝統建築がその地域・気候のもとでどのように理にかなっているのかなど、さまざまな要素から空間の快適性を追求する中で、木繊維断熱材シュタイコが果たす役割について話を伺った。

有限会社もるくす建築社

代表取締役

佐藤 欣裕 氏

秋田県美郷町にアトリエ「もるくす建築社」を構える一級建築士。独学で建築を学び、2012年に父の会社を継ぎ代表に就任。スイスやオーストリアのサスティナブル建築から大きく影響を受ける。 環境建築分野を中心に活動。2017年「佐戸の家」で第18回 JIA環境建築賞最優秀賞を受賞。

自然の原理から考える木材の価値

シュタイコとの出会いはイケダコーポレーションからの紹介でした。それまでドイツの自然塗料を通じてのお付き合いでしたが、木繊維の断熱材を取り扱い始めるとのこと。私は自然の原理に逆らわない「その土地その気候にベストな建築」軸に自然の原理に寄り添うような設計を心がけています。木材は使い方によって難燃性や強度、透湿性などの建築に重要な要素が揃っていること、そして製造から廃棄までのCO2排出面でもトータルで理にかなっており否定的なことが少ない素材です。特に夏場、太陽高度が高くなる環境下では屋根断熱の役割は重要です。どうやって断熱厚さをシンプルに施工できるか、という課題の中でブローイングが良いと思っていたところにイケダコーポレーションから吹き込みの木繊維断熱材の提案がありました。木の建築には異素材よりも木同士の相性が良いでしょうから、使用するのはそれこそ自然な流れだったのです。

木材の蓄熱性能を生かす『木造3.0』

柱と柱、梁と梁の間を空け、材料を削減する伝統的な木造建築を『木造1.0』、現代の主流で柱間や梁間に石膏ボードや合板を詰め込んだ構造を『木造2.0』。そして自社の美郷アトリエでは「化学系のものが詰め込まれている部分を、すべて木に置き換えることができるのでは?」というところから設計を始め、木材に厚みを持たせ蓄熱性能を生かした構造にたどり着きました。これを『木造3.0』と呼び、防火・耐震・温熱基準を木質材料だけでクリアしています。

体感と環境が結びつく建築を、なるべく木だけで

木造建築は時間が経過するほど風合いを増し、資産価値を高める必要があります。そして最後には土に還りやすいことが望ましい。木材自体の吸放湿や蓄熱、臭いを吸着する性質から空調や換気システムは入れず、自然換気を活用するために窓を適切に開けられるようにしておくことが重要です。美郷アトリエには換気システムはなく冬でも窓を開けて空気を入れ替えますが、壁の熱容量が大きいので急激に体感が寒くなることはなく室温が戻るのも早い、「快適な範囲内」のゆらぎをもたらす温熱環境になっています。 現代のシステム化された建築においては、コストや長期的な汎用性、さらには居住者の健康にも配慮する必要があります。それに気づき考えた時に、何に置き換えるか?私は、その選択肢こそ「木」であると考えます。

建築後の廃材処理費も年々高騰していく中、いろいろなものを木材に置き換えることで処理費の削減になり、しかも環境に良い。建築に関わる人たちにとっても、そこに住まう人たちにとっても、あらゆる面でみんなの利益を追求することは重要です。シュタイコをはじめとする自然素材を選択することが建築における習慣となるよう、研究や情報発信を今後も続けていきたいと考えています。

Interview

Interview #05 │ 手段としての性能とデザインの両立

株式会社Eee Works 一級建築士事務所 代表取締役
日下 洋介氏
住まい手の安心と安全、住まい心地を最高レベルで家づくりに落とし込む、こだわりの詰まった設計力で注目を集め、大阪を拠点に活躍中。Eee worksの3つの[e]は「enjoy(楽しむ)」「effort(努力・精進する)」「embody(造形として作り上げる)」。2024年の第8回日本エコハウス大賞では、新築部門にて「箕面の家」奨励賞受賞。