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Interview #05 │ 手段としての性能とデザインの両立
2011年の東日本大震災を契機に、アトリエ事務所時代に培ったデザインを重視した設計からは一旦離れ、自身の家づくりに対する姿勢を見つめ直した株式会社Eee worksの日下洋介さん。建物自体の耐震性や基本性能を高めることの先にある、暮らす人にとっての安全性や心地よさに関しても焦点を当て、施主・施工業者と一体になり建てられるエコハウスに定評がある。「性能と両立するデザイン性にも優れたエコハウス」を訴求し続ける日下さんに、シュタイコの効果的な使い方と建物にもたらす利便性について教えてもらった。
今回のスペシャリスト

株式会社Eee Works 一級建築士事務所
代表取締役
日下 洋介 氏
住まい手の安心と安全、住まい心地を最高レベルで家づくりに落とし込む、こだわりの詰まった設計力で注目を集め、大阪を拠点に活躍中。Eee worksの3つの[e]は「enjoy(楽しむ)」「effort(努力・精進する)」「embody(造形として作り上げる)」。2024年の第8回日本エコハウス大賞では、新築部門にて「箕面の家」奨励賞受賞。
エコハウスの性能は「手段」である
独立した2010年頃から開始した住宅の温熱環境に関する学びや実践を経て、私は今、はっきりと性能を「手段」として考えられるようになっています。
住宅業界においてハウスメーカーや大手ビルダーと、地域工務店やわれわれのような設計事務所が、住宅の省エネや断熱性能の向上を目指す流れとなりつつある現在は、地球温暖化が進む中でとても良い流れにあるといえます。
ただ、施主の中には性能がゴールではなく、その先の何かを求めている方がいらっしゃいます。当社を訪れる施主の中には、年間光熱費をいくらまでにしてほしいなど数値的な具体的要望というよりは、自分たちが実現したい暮らしのイメージがあり、意匠性にこだわりを持つ方も多いです。家の暑さや寒さ、過度な光熱費の負担など、住むためにストレスが掛かるものは、性能で排除してほしいと考える方たちといえば良いでしょうか。設計事務所や地域のアーキテクトビルダーと呼ばれる地域工務店がその受け皿になるという、今の構図がとても良いと考えています。

例えば自動車産業では、以前には一般的ではなかった自動ブレーキシステムや自動駐車アシストなどの機能が、どの自動車メーカーでも当たり前に装備されるようになりつつあります。今のエコハウスの性能も将来的に標準仕様になる可能性は高く、性能はゴールでなくあくまで手段だと捉えています。私は住宅市場の8割を担っている側ではなく、2割、もしくはもっと少数側の住まいの造り手としての視点を大事にしており、住まいづくりの全体像はまだ途上にあると考えています。
年々厳しさを増す猛暑への対応

エコハウスの評価軸はさまざまですが、夏は遮蔽して冬場日射を取得することに重きを置かれることが多いです。最近の高性能住宅やエコハウスでは「南の開口の礼賛」の傾向がありますが、私自身は現在、南面に大きな開口部を設けることが全てではないと考えています。断熱化が進んだ現代の建物は昭和時代のように、冬に起きたらすぐファンヒーターを入れて30分したらようやく暖まって動き出せる、というようなことにはなりません。さらにG2・G3・パッシブハウスレベルなど、そもそも建物躯体が寒いという状態になりません。むしろ、年々高温になる夏の暑さの方が大きな問題となっており、南面の大開口がもたらすのはリスクの方が大きくなりつつあります。これまでも南面に大開口を設けた際は、夏の日射取得を行わないよう遮蔽型にしてきたのですが、それでもバランスが崩れつつあるほど暑いのが現代なのです。
今、南面に大開口を設けて北面はなるべく絞り、東西面に関しては必要がなければほぼ絞るということが定説となっています。しかし、実際に夏の現場で作業をしていると、南面ですごい暑さを感じます。なぜかというと、もうありとあらゆるものが蓄熱し熱放射があるうえに、直射日光も入るからです。それをちょっと防いだところで追いつかない状況になりつつあることを、実務者として現場に出ている人たちの多くが肌感で感じているのではないでしょうか。
採用の決め手は熱容量の大きさ

シュタイコの説明を初めて聞いた際、熱容量が非常に大きいということにとても興味を持ちました。断熱材は一般的に熱伝導率に焦点を当てられ、その数値を見て判断されることが多いものです。しかし、シュタイコの原材料は木繊維なので多孔質な構造になり、そこに熱を取り込み熱容量が大きくなるという説明を受け、とても腹落ちしました。また、現代の家余りの時代に家を造っている者として、「全ては無理でもなるべく無垢材や土に還る材料を選択する」ということも外せない要素でした。
そして、シュタイコを採用した家ではその「吸音性」の良さも体感しました。どんな断熱材でも断熱性能をある程度上げていくと、防音室を造っているのと同じ基本構造になり、防音効果を高めることは可能です。しかし、シュタイコの空間では、音の座り具合というか取れ具合がとても良く、音が適度に反響するからか、落ち着いて音環境がとても自然で心地よく感じられます。
コスト効率を重視した活用法
コスト面で一番効果的なシュタイコの使い方は、吹き込み式のシュタイコゼルによる屋根の付加断熱でしょう。私たちの設計するG2〜G3の建物は、屋根の充填断熱の厚みが200〜300mm程度になるので、吹き込み式で金物の熱橋などを気にせず、また何層も重ねることによる脱落もなく施工できる点は、設計者としても安心です。屋根断熱の施工は金物や配線のことを考慮すると根気が必要で難しくなりがちなので、専門業者が決められた日数で精度の高い施工をしてくれるのは信頼性の担保にもなります。 「そこまできたら、もったいないので壁もシュタイコゼルにしようかな」となってしまいますね。
